2019年08月18日

鴻上尚史著『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』


鴻上尚史著『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書 2017.11刊)は、太平洋戦争末期、南の海で敵艦めがけて9回出撃して9回とも帰還した旧日本陸軍の特攻兵・佐々木友次さんへの5回のインタビューをもとに書かれている。佐々木さんはその2年後、2016年2月に亡くなっている。

当別の人ならば、佐々木友次さんと聞いて「あぁ、あの人だ。」と思いいたる人が多くいると思う。町内茂平沢で農業を営んでいた佐々木さんなのだから。しかし、佐々木さんは戦後、戦時中の特攻体験のことには口を閉ざして多くを語ることがなかったそうだから、知る人ぞ知るという存在だったかもしれない。

本書は4つの章で構成されている。第1章では、著者がどのようにして「生きて帰ってきた」元特攻兵の佐々木さんに行き着き、証言を得ることができたかが述べられる。第2章は佐々木さんの特攻兵としての体験がつぶさに語られる。著者がインタビューを実行したころの佐々木さんは病院で入院生活を送っていた。従ってインタビューと言っても各回、せいぜい1時間程度であったようだ。本章にある佐々木さんの特攻兵としての詳細は、高木俊朗著『陸軍特別攻撃隊』(文藝春秋社)というノンフィクションがベースになっている。どの資料よりも特攻兵・佐々木さんを詳述している。佐々木さんを知るにはこの本も必読である。なにしろ高木著の冒頭から、「佐々木友次伍長が飛行場を歩いていると、報道班の腕章を付けた新聞記者に行きあった」とあるように、重要な位置を占めている佐々木さんだ。第3章は佐々木さんへのインタビューで構成され、第4章は特攻隊とは何だったのかを多面的に分析している。

当別町(当時は当別村)の農家に生まれ、飛行機乗りになることを夢見て17歳で逓信省の航空機乗員養成所に合格した佐々木さん。時代は太平洋戦争末期、21歳の佐々木さんは陸軍最初の特攻兵として配属され、フィリピンの戦線に送られる。何度も出撃を繰り返すがそのたびに生還する。「必ず死んでこい!」という上官の命令に反してである。地元当別では、敵艦に体当たり死して手柄を立てた「軍神」として盛大に葬儀まで営まれたという。

敗戦後、死ぬことを前提とした特攻隊員の佐々木さんは、死ぬことなく生きて故郷に還ってきた。戦後の社会で佐々木さんのたどった生きづらさは、佐々木さんの口を閉ざしてしまうことになる。佐々木さんの気持ちを考えると、単純に「この貴重な体験をもっとこの町で語って欲しかった」というのも酷なことなのかもしれない。

一方で戦争のもつおろかさの典型的な素材として、地元がこの元特攻兵をどうしてフォローできなかったのかというもどかしさも感じる。本書をきっかけに、佐々木さんの気持ちに寄り添える地元・当別であるために何らかの〈行動〉が必要ではないだろうか。

(「ゆめの種子(たね)通信」第17号(2018.2)掲載)

※高木俊朗著『陸軍特別攻撃隊』は長く絶版だったが、2018年12月に文春学藝ライブラリー(文庫、3分冊)としてに復刊された。

posted by yagi at 20:49| Comment(0) | 農文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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